〜知財ベンチャーに関する皆様からよく寄せられるQ&A集〜
A. ベンチャー企業は、一般の中小企業とよく比較されます。
中小企業は、中小企業基本法において、以下のように定義されています。
・製造業:資本金規模3億円以下または従業員300人以下。
・卸売業:資本金規模1億円以下または従業員100人以下。
・小売業:資本金規模5,000万円以下または従業員50人以下。
・サービス業:資本金規模 5,000万円以下または従業員100人以下。
一方、ベンチャー企業は、『先端技術を事業コアとした高いレベルの研究開発型企業』というようにイメージされています。ただし、近年は、技術志向の企業ばかりではなく、イノベーションという切り口から、商品やサービスのみならず、経営の各局面においても工夫・改善を継続的に行い、これを知的財産に昇華させて企業価値の向上を目指すといったオンリーワン的企業も含まれます。
つまり、ベンチャー企業にとって、知的財産が力強い経営資源として捉えられつつあります。
一般企業とベンチャー企業の違いを山登りにたとえて、一般企業が六甲山の登山であるとすれば、さしずめベンチャー企業はヒマラヤ登頂に相当するでしょうか。ベンチャー企業は、一般企業に比べてリスクの大きさが格段に高く、状況によっては『撤退』という選択肢も考えておかなければなりません。
ベンチャー企業は、規模もさまざまであり、マンションの一室を拠点にしているスモールベンチャーから、大企業になってもベンチャー的スタンスを維持しているビッグベンチャーもあります。
しかしながら、日本社会の中小企業の共同経営をみてみると、業務システムの違いや企業文化の相違など障害要因に阻まれ本質的には軌道に乗らないケースが多く見受けられます。こうした状況を考えますと、経営の自由度を確保するためにも単独でがんばってみるべきでしょう。この場合、独自に開発した技術が職務発明になるのか、あるいは業務発明、自由発明になるのかを明確にしておく必要があります。
一方、所属企業の業種からも完全に離れ、個人的に独自開発した技術をベースに事業化を計画している場合は、親会社との関係を断ち切り背水の陣の気構えをもって、甘えの許されない状況下でチャレンジしてみるべきでしょう。
この資金問題に加え、優秀な人材が集まらない、販路がないというのがベンチャー経営の常態といわれます。まず人材については、スタート時には一人で対応できたとしても、事業の成長に伴って無理が生じてきます。とりわけ、尖った技術を持つベンチャー企業では技術偏重の傾向が強く、経営とのバランスに齟齬をきたすことも考えられます。開発と経営という両輪のバランスをとるためにも、早い時期に経営を任せられる人材を見つけることをお勧めします。
次に販路については、最近はかなり改善されましたが、それでも取引となると過去の実績や企業規模が重視され、無名のベンチャー企業はなかなか相手にされません。思い切って、実績より実力が正当に評価される海外市場から攻め込み、そこで実績を上げたうえで国内に戻る手もあるでしょう。
あるいは、特許を取得して、ライセンス供与をすることも考えられますが、相手が大手企業であれば、類似技術を開発して特許群を取得し、ライセンス契約を終結されるという結末を迎えることもよく耳にする話です。発明を奨励し、発明者を保護する特許制度ですが、ビジネスに活用するとなると、周到な戦略が欠かせません。
また、公的な資金助成制度としては、中小企業庁をはじめ、中小企業基盤整備機構、各地方自治体による様々な支援プログラムがあります。またベンチャー・エンタープライズ・センターは資金調達のための債務保証をしてくれます。それぞれのホームページで確認してみてください。
さらに、プロジェクト・ファイナンスという資金調達方法もあります。将来性のある優れたプロジェクトであれば、予想される収益をもとに投資を受けることができます。企業に対する融資ではなく、プロジェクトへの融資ですから、知名度や信用力に欠けるベンチャーにとっては、銀行融資よりもハードルが低いかもしれません。ただし、当然のことながらプロジェクトは厳しく審査されます。
これと関連して、プロジェクトを目的物として譲渡担保借り入れすることもできます。この場合、担保物の所有権が担保権者に移転しても債務者が引き続き担保物を使用できます。したがって、プロジェクトの収益を返済に充てることができるわけです。ただし返済が滞った場合は、担保物であるプロジェクトは任意に売却されてしまいます。
一方、対外的には、主として投資家を対象とするプレゼンテーション資料となり、投資家に事業の魅力、有望性を訴えるべく、プラン全体を1枚のエグゼクティブ・サマリーに要領よくまとめることがポイントといえましょう。夢を語ると同時に、その夢の実現に向けたプランが現実に即して考え抜かれたものでなければなりません。この部分だけで投資にゴーサインが出るように、サマリーの作成には力を入れたいものです。 エグゼクティブ・サマリーに続き、本文には次のような項目を入れるとよいでしょう:
・ビジネスの名称
・マネジメントチーム
・ビジネスの理念
・事業内容
・商品・サービスの特徴、優位性
・市場動向
・財務計画
・競合企業と自社の競争優位性
・中小企業・長期的展望
・リスクとその対策
もちろん、他社に不正使用されないために、ブランドの商標登録は必須です。審査の結果、登録料金を納付して商標登録されますと、10年ごとの更新によって半永久的に商標権を所有することができます。
たとえば一定の要件を満たした個人での出願の場合、審査請求料は免除または半額に軽減され、1年度から3年度分の特許料も、免除もしくは3年間納付が猶予されます。
一方、研究開発型中小企業(多くのベンチャー企業がこれに相当すると思いますが)の場合は、審査請求料と特許料1年度〜3年度分がともに半額軽減の措置が受けられます。
A. アントレプレナーは起業家と理解され、特にベンチャーを起業する人をさして使われます。アントレプレナーをテーマとした書物やセミナーは多数存在しており、その定義や資質が多くの場で述べられています。表現は変わっても本質的には同じ能力や資質が求められていると思っています。
知財ベンチャーを提唱する特許事務所として、「PATENT」をもじりながら、次のようにベンチャー・アントレプレナー像を描いてみました。
『Passion』 ・・・ ベンチャー・アントレプレナーは情熱や夢を持つべき。
『Ambition』 ・・・ 大いなる野心、手の届きかねる目標に向かって、突き進む積極性がなければ成長はありえない。
『Toughness』 ・・・ 何事を行うにも肉体並びに精神の強靭さが第一である。熾烈なグローバル競争が展開される中、諸外国のビジネスパーソンと互角に伍していけるタフさが必要であろう。
『Enemy』 ・・・ 常に意識の片隅に危機感を宿らせる意味で、ライバルなり競合企業なりの何らかの敵を想定すべきである。「危機感」は不安材料ではなく、精神に適度な緊張をもたらす。
『Novelty』 ・・・ 特許の要件の一つに新規性(Novelty)がある。技術や製品は勿論のこと、経営システム全般に「新規性」を求めるイノベーティブな視点が必要である。
『Timing』 ・・・ ベンチャーは先進性が身上だ、とは言うものの、市場がそれら先進性ある優れた技術や商品に追いつかず、退場を余儀なくされることもあります。常に半歩くらい先をいくタイミングを見計らうことも大切です。
A. ベンチャー起業の動機は、多くの場合、最先端の技術を製品化して社会の利便性の向上に貢献することにあるでしょう。しかしながら、このような技術志向の動機で起業しても、当初からベンチャー・アントレプレナーとしての資質が備わっているわけではありません。
やはり、試行錯誤しながら経験を積むと同時に、小さな失敗からも謙虚に何かを学びとりながら、徐々に能力を高めてゆくということでしょう。
また、社会のビジネスモデルは、近年の社会の劇的な変化に応じて大きく変化してきており、業態や業種も昔と比べて大きく変貌を遂げています。しかしビジネスの骨格、すなわちモノやサービスを販売・提供して代金を回収し、適正な利益を得るという商売の骨格については昔から変わりません。ベンチャーのこれまでの成功例や失敗例についても、社会の中に多くの例が蓄積されています。
したがって、メンターやコンサルタントを社内に迎えたり、社外取締役会を設置したり、或いは同業種・異業種交流会でのネットワークを積極的に活用したりしながら、社会に蓄積されているこれらの「知恵」を積極的に活用し、ベンチャー・アントレプレナーとしての資質をより高める努力をすべきでしょう。
A. 経営の行き詰まりの直接の原因は、モノやサービスが売れないということに尽きると思います。では、売れないのは何故なのか。
シーズに工夫がない、営業開発力がない、マーケティング力が弱い、ブランディング力が弱い、資金の調達・運用能力が欠けている等といったマイナス要因が複数かさなりあうことで坂道を転げ落ちていきます。
しかしながら、これらの失敗の要因のもとをさらに辿っていきますと、ヒト、すなわちベンチャー・アントレプレナーの能力不足に行き着きます。
大企業とは違い、規模の小さいベンチャー企業ではトップの能力が経営を左右する度合いが大きくなります。成功するも失敗するもトップの能力次第と言えるかもしれません。
ベンチャー・アントレプレナーは、何のために起業するのか、どのような価値を社会に提供するのかといった根本的な理念を明確にするとともに、財務感覚も欠かせません。
A. ミッションとは、自社がどのような使命を負った企業であるのか、どのような理由で社会に存在してビジネスを行っているのか、つまり、自社の使命や存在理由を表明するものです。
ビジョンとは、自社の将来在るべき姿(目的地)を表明するものです。
これらミッションやビジョンは、会社を船に例えれば、この船は何のために、どこに向かって航行しているのか、どのようにして目的の港に到着するのか、といった情報であるといえ、自社のホームページの会社紹介等において対外的に示すためだけでなく、乗組員である社員全員でこれら情報を共有し、いわば運命共同体としての自覚を醸成するためのものです。
また、従業員が増え、特にコーポレート・アイデンティティやカンパニーブランドを確立すること考える際には、これらミッション及びビジョンのもとでの全社一体性がより重要となってきます。